2012年05月02日

バス事故

 今回の事故は、起こるべくして起きたといっても過言ではないだろう。
 高速バスの運賃は、競争のレベルをとおり越している。
 今回の事故は、路線バスという公共輸送サービスではなく、あくまでツアーという「団体旅行」の形式をとっている。
 このような運賃(企画旅行のツアーの場合は旅行代金)は、大手の路線バスとは金額を違い、はるかに安い。
 大手のバス事業者は、安全面からも夜行便は2名乗務が当然で、途中で交代している。
 しかし、旅行会社(それも中小の)が企画するこのようなツアーバスは、中小零細のバス事業者にバス運行を委託する形式の団体旅行である。団体旅行だから規制もないに等しい。
 旅行会社は、バス会社に低価格を要求し、過当競争に陥っているバス業界は貸切バス料金を極限まで下げる。
 大手の路線バス業者は、安全面も一定のレベルを維持しているため、価格面ではまったくかなわない。
 金沢-東京間が3500円なんて、正常な価格設定ではない。
 世の中、物でもサービスでも、一定以上のレベルは維持しなければならない。
 昨今は、民間の価格競争で物が安くなりサービスも向上するという理論が当たり前のようにまかり通っている。
 不当な価格競争などを制御するために、法律や規制というものは存在する。
 しかし、小泉改革以降、それらの類のものは、競争性や新規参入を阻むという理屈で、ことごとく撤廃してきた。国民もそれを歓迎し、選挙の結果となってきた。その流れは今も変わっていない。
 バス事業や、タクシー業界の新規参入などがそうだ。
 それでよくなったのだろうか。
 近視眼的には、目の前の価格が下がったといういことで、みんなが喜ぶ。しかし、そのためのコスト削減のために、人件費や安全コストもどんどん切り落としてきたのが、現在の状況だ。負の部分、都合の悪い部分には目を向けず気づこうともしない。マスコミも目を背ける。だから国民は気がつかない。
 正常な対価を支払わなくなった日本は、労働者の切捨て、派遣の増加、給与の削減と、景気はどんどん悪くなってきている。
 そのことに気がつかず、よりいっそうの競争や更なるコスト縮減、無駄の削減が叫ばれている。それで景気がよくなるはずはない。そうやって国民が皆、足の引っ張り合いをやっている。役所の仕事も更なるコスト縮減をと、バカのひとつ覚えにマスコミは騒ぐ。
 どっかの市長はバカの一つ覚えに、民間活力だ民間の仕事は優秀だと、役所をバカにして敵にまわすことで人気を得ている。
 無駄とはなんだろうか。私は以前から何度も「無駄イコール余裕」であると言っている。コスト縮減と言う言葉は大嫌いである。そのセリフを聞くとイラっとする。しかし、企業も役所もその言葉が正義だ。反論すれば否定される。上から・・・・
 余裕があれば、正常の対価が支払われる世の中であれば、給与が上がり、その金が世の中をまわり、景気もよくなっていくというものだ。
 無駄が極限まで切り落とされていけば、それは糸がどんどん張り詰めるような世の中になっていくことと思う。張り詰めた糸はやがて切れる。自殺率が上がったり、会社がたくさん倒産したり、正社員が減り雇用が不安定になっている現代は、まさに余裕のない、張り詰め緊張しきった状態である。
 バス会社は生き残りのために極限までコストを下げた結果が、今回の事故原因である。しかし、バス会社やましてや運転手を単純に責めることはできない。コスト削減のツケが、現場の末端の運転手にすべてのしわ寄せが回ったのである。
 責任は、適正な価格よりも、競争による極限までのコスト削減の結果の価格を認めてきた、歓迎してきた、政治と国民にある。
 バス料金も、ここはこんなに安いから利用したみたいなことを平気で自慢する人を何人も見てきた。人は誰でも安い買い物をすると自慢するものだ。
 私は、あまりにも安い交通サービスには疑問をもってきた。JRや大手の運賃も努力の結果、抑えられているのは事実である。しかし、一定の基準を守るための最低限の原価というものは割ることはできない。しかし、中小零細企業は生き残りのため無茶をしてきた。
 人の命を直接預かる、公共輸送サービスの分野にはしっかりした規制が必要で、無秩序な新規参入や価格競争は法律で縛るべきである。レベルの低い業者は、規制により淘汰されていくべきである。
 東京-金沢の輸送サービスが3500円で成り立つということに疑問を持つべきである。新幹線や大手バスの運賃を高すぎると否定するのが間違っているのである。
 さて、最近は格安航空会社、LCCというのがはやってきている。しかし、根本の部分は過当競争にある高速バスと同じと思う。零細バス会社よりも、格安航空会社の方がはるかにまともだとは思うけれど、乗務員に清掃から窓口からなんでもやらせてコストを抑えていますとニュースでも言っていた。今回のバスの運転手と同じではないか。マスコミはそんなサービス競争を賞賛する。疑問の声は出ない。疑問の声があってもそれは放送しない、掲載しない。高い価格サービスに対しては「無駄がないのか」と文句は言うが。
 格安航空の輸送サービスの価格が適正であるのか、不当な設定であるのかは、今後、答えが出てくるだろう。
 公共輸送サービスを、ユニクロなどの物のサービスと同列で、競争やコスト削減を求めてそれを正義だとするのは大間違いであると声を大にして言いたい。
 もっともユニクロのやり方も、人件費の安い途上国で生産し、最近は店員もグローバル化だとか言って外国人も分け隔てなく採用するなど、国内の雇用や経済にはまったく貢献していないといえる。私は、正社員になりたい日本の若者を積極的に採用する企業を応援したい。
 英語を社内公用語にするなどと宣言するような企業には、公共サービスの分野には参入して欲しくない。コスト削減と競争こそが正義だ、正当な権利行使みたいなことを言って、結果として弱者が苦しめられることに気がついていないから。
 最後に、このようなバスの事故がおきても、乗用車での移動よりは死傷率はるかに低いであろうし、バスは鉄道と相対しても価格が安く、車と比べれば安全な乗り物であることは変わらないだろう。
 バスという輸送サービス分野が、今後も健全に発展していくことを祈っている。
   

Posted by よっぱらいくま at 18:10Comments(0)TrackBack(0)事故・災害