2014年09月27日
吉田調書を読んで
朝日新聞の捏造報道をきっかけに公開された、福島原発事故の顛末を語った吉田調書の詳細な内容が新聞に掲載されました。
それを読んで感じたのは、東電上層部と官邸・政治家の情けない行動と、現場の死闘でした。
最近読んだ交通新聞社新書から出ている「青函トンネル物語」(2013年6月発行)という本の中に、こんなことが書いてありました。
青函トンネル工事中の作業坑大出水事故に対応する鉄道建設公団幹部のやりとりです。
少し長くなりますが、要旨を紹介します。
***************
公団本社午後4時
本社にいた局長の藤田(青函建設局長)は落ち着かない様子だった。本社の海峡線課では係長が中心となって現地からの情報をまとめていた。秘書室に持田次長から電話があった。
「出水が増えています。局長、帰ってください」
受話器から流れる持田の声は、いつもとまったく調子がちがっている。朝からの不安が現実となったのか、頭がカッとして体が熱くなるのを覚えた藤田は、落ち着けと肝に銘じた。
「(出水は)何トン位だ」
「わかりませんが(毎分)30トンはオーバーしています。今、バルクヘッドで防いでいますが」
「何としても、・・・水門扉を早く閉じて防げ。先進導坑は必ず守れよ」
藤田は声を荒げて次々と指示する。
「局に対策本部を設けて、君が本部長になれ。吉岡(現地)には行くな。移動すると2時間の空白が心配だ。いいか。局を動くでないぞ」
持田に伝え終えると、藤田は受話器を静かに置いた。声が大きくなり、秘書室の人達が心配そうに眺めていた。藤田は照れ隠しに「ありがとう」と言って、秘書室を出て行った。
秘書室を出た藤田は、すぐ篠原総裁に報告して、「函館に帰ります」と告げたところ、「千歳廻りで帰ったら」と言われた。時計を見ると、函館行き最終便が羽田を飛び立つ時刻だった。
「現地は混乱しており、局長が深夜、千歳へ着けば余計な手数を煩わすので列車で帰ります。私が早く着いても。津軽海峡の水を止めるわけでもないですから」
篠原は苦笑しながら、「何かやってほしいことはあるか」と言った。
大変に心強い言葉に、ありがたいと思った藤田は、「お願いは、どうか直接、総裁から私に電話をかけないで下さい。私は局で指揮をとります。現地の細かい事情のわからないのは総裁と同じです。わからない者同士の話はロクなことになりません。正式ルートで報告させますし、必要な時は、私から電話を差し上げますから、わがままと思いますがお願いします」
深々と頭を下げて部屋を出ようとすると、篠原は黙ったまま立ち上がり、藤田の肩をボンとたたいて「頼むよ」と言った。藤田は総裁の顔をジッと見たまま返事をせずに黙って、もう一度頭を下げて部屋を去った。
***************
この話しを、原発事故対応にあたる現地の吉田所長と幹部たち、東電本社の幹部たち、そして官邸の政府首脳たちに置き換えて考えました。
日本国のトップである菅首相は、パニクって何も考えずに翌日ヘリコプターで早朝に現地に行った。そのためにどれだけの人材が無駄に動員されることになったことか。そしてなにやらわめき散らしただけで帰った。結果は、吉田調書曰く、「何か怒っている様子だったが、何を言っているのかよくわからなかった」
藤田は次長の持田に決して局から動くなと指示した。総裁に報告し最速で帰れる千歳行きの飛行機に乗ることを提案されるも、「深夜に千歳に着いても迎えの手間を現場にかけるから列車で帰る、私が早く帰っても状況がよくなるものではない」と、判断します。
菅は自ら東電本社に怒鳴り込み、ただ怒鳴り散らし、罵倒した。
総裁は「何かやってほしいことはあるか」と局長に、一言だけ言う。
藤田局長は、電話を直接しないでほしい、局で指揮をとる私も細かい現地事情がわからないのは同じ、わからない者同士の話しはロクなことになりません、と応える。
この言葉こそ、今回の福島原発事故の対応と対極をなすものではないでしょうか。
東電本社と官邸が、現地のことをロクにわかっていないのに的確な助言はなしに勝手な指示命令を出し、海水注入の中断の指示を出した。
わからない者同士が勝手に暴走して、全員撤退という話しが拡散していった。
まさに、「わからない者同士の話しはロクなことになりません」ということにまったく気づいていなかった。
菅は発災の翌日に現地にヘリで飛んだ。現地の手を煩わすという気遣い、トップが本部不在となること、首相が現地に行ったって何も状況がよくなるものでもないこと、それらすべての問題点が菅はまったくわかっていない。藤田の言葉とはまさしく正反対の行動をとっています。
総裁は最後に、ポンと肩をたたいて一言「頼むよ」とだけ言います。
この鉄道公団幹部の一連の会話で読み取れるのは、総裁は局長を信頼していること、上層部は落ちついて冷静な行動を取ることが大事であり、ただやみくもに1分1秒でも早く現地に行くことよりも大事なことがあるということ、局長も現地で死にものぐるいで動いている現地の部下たちを信頼しているということが、総裁と局長の言葉から読み取れます。
「青函トンネル物語」の題名どおり、多少の脚色はあるだろうが、当時の鉄道公団はこうして青函トンネル水没の危機から脱出しました。
現代の社会、組織はどうでしょうか。何かあればトップがしゃしゃり出てきて現場を混乱させる。部下を信用していない。何かと言えばトップダウンだとぬかす。
ブラックと呼ばれる民間会社なんか特にそうだし、政治家も首長も役所も同じ、そんな傾向にあります。
菅がまさに悪例だし、橋下とか河村とかも同類でしょう。民主党も幼な過ぎた。自民党議員だって同じだ。威張り散らし官僚や現場を混乱させる勘違い議員は多数います。
「ボクが出て行かなければダメだ」なんていつも橋下は言い職員を信用しない。そのくせ災害が起こっている最中に自宅でツイッター三昧がばれると、「ボクが行かなくても電話指示で十分だ」などと言い訳け、支離滅裂だ。
やっぱり日本国という組織は、劣化していると感じざるを得ません。
政治家も企業家も、そして私自身を含む大人たちすべてが劣化しているのでしょう。
それを読んで感じたのは、東電上層部と官邸・政治家の情けない行動と、現場の死闘でした。
最近読んだ交通新聞社新書から出ている「青函トンネル物語」(2013年6月発行)という本の中に、こんなことが書いてありました。
青函トンネル工事中の作業坑大出水事故に対応する鉄道建設公団幹部のやりとりです。
少し長くなりますが、要旨を紹介します。
***************
公団本社午後4時
本社にいた局長の藤田(青函建設局長)は落ち着かない様子だった。本社の海峡線課では係長が中心となって現地からの情報をまとめていた。秘書室に持田次長から電話があった。
「出水が増えています。局長、帰ってください」
受話器から流れる持田の声は、いつもとまったく調子がちがっている。朝からの不安が現実となったのか、頭がカッとして体が熱くなるのを覚えた藤田は、落ち着けと肝に銘じた。
「(出水は)何トン位だ」
「わかりませんが(毎分)30トンはオーバーしています。今、バルクヘッドで防いでいますが」
「何としても、・・・水門扉を早く閉じて防げ。先進導坑は必ず守れよ」
藤田は声を荒げて次々と指示する。
「局に対策本部を設けて、君が本部長になれ。吉岡(現地)には行くな。移動すると2時間の空白が心配だ。いいか。局を動くでないぞ」
持田に伝え終えると、藤田は受話器を静かに置いた。声が大きくなり、秘書室の人達が心配そうに眺めていた。藤田は照れ隠しに「ありがとう」と言って、秘書室を出て行った。
秘書室を出た藤田は、すぐ篠原総裁に報告して、「函館に帰ります」と告げたところ、「千歳廻りで帰ったら」と言われた。時計を見ると、函館行き最終便が羽田を飛び立つ時刻だった。
「現地は混乱しており、局長が深夜、千歳へ着けば余計な手数を煩わすので列車で帰ります。私が早く着いても。津軽海峡の水を止めるわけでもないですから」
篠原は苦笑しながら、「何かやってほしいことはあるか」と言った。
大変に心強い言葉に、ありがたいと思った藤田は、「お願いは、どうか直接、総裁から私に電話をかけないで下さい。私は局で指揮をとります。現地の細かい事情のわからないのは総裁と同じです。わからない者同士の話はロクなことになりません。正式ルートで報告させますし、必要な時は、私から電話を差し上げますから、わがままと思いますがお願いします」
深々と頭を下げて部屋を出ようとすると、篠原は黙ったまま立ち上がり、藤田の肩をボンとたたいて「頼むよ」と言った。藤田は総裁の顔をジッと見たまま返事をせずに黙って、もう一度頭を下げて部屋を去った。
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この話しを、原発事故対応にあたる現地の吉田所長と幹部たち、東電本社の幹部たち、そして官邸の政府首脳たちに置き換えて考えました。
日本国のトップである菅首相は、パニクって何も考えずに翌日ヘリコプターで早朝に現地に行った。そのためにどれだけの人材が無駄に動員されることになったことか。そしてなにやらわめき散らしただけで帰った。結果は、吉田調書曰く、「何か怒っている様子だったが、何を言っているのかよくわからなかった」
藤田は次長の持田に決して局から動くなと指示した。総裁に報告し最速で帰れる千歳行きの飛行機に乗ることを提案されるも、「深夜に千歳に着いても迎えの手間を現場にかけるから列車で帰る、私が早く帰っても状況がよくなるものではない」と、判断します。
菅は自ら東電本社に怒鳴り込み、ただ怒鳴り散らし、罵倒した。
総裁は「何かやってほしいことはあるか」と局長に、一言だけ言う。
藤田局長は、電話を直接しないでほしい、局で指揮をとる私も細かい現地事情がわからないのは同じ、わからない者同士の話しはロクなことになりません、と応える。
この言葉こそ、今回の福島原発事故の対応と対極をなすものではないでしょうか。
東電本社と官邸が、現地のことをロクにわかっていないのに的確な助言はなしに勝手な指示命令を出し、海水注入の中断の指示を出した。
わからない者同士が勝手に暴走して、全員撤退という話しが拡散していった。
まさに、「わからない者同士の話しはロクなことになりません」ということにまったく気づいていなかった。
菅は発災の翌日に現地にヘリで飛んだ。現地の手を煩わすという気遣い、トップが本部不在となること、首相が現地に行ったって何も状況がよくなるものでもないこと、それらすべての問題点が菅はまったくわかっていない。藤田の言葉とはまさしく正反対の行動をとっています。
総裁は最後に、ポンと肩をたたいて一言「頼むよ」とだけ言います。
この鉄道公団幹部の一連の会話で読み取れるのは、総裁は局長を信頼していること、上層部は落ちついて冷静な行動を取ることが大事であり、ただやみくもに1分1秒でも早く現地に行くことよりも大事なことがあるということ、局長も現地で死にものぐるいで動いている現地の部下たちを信頼しているということが、総裁と局長の言葉から読み取れます。
「青函トンネル物語」の題名どおり、多少の脚色はあるだろうが、当時の鉄道公団はこうして青函トンネル水没の危機から脱出しました。
現代の社会、組織はどうでしょうか。何かあればトップがしゃしゃり出てきて現場を混乱させる。部下を信用していない。何かと言えばトップダウンだとぬかす。
ブラックと呼ばれる民間会社なんか特にそうだし、政治家も首長も役所も同じ、そんな傾向にあります。
菅がまさに悪例だし、橋下とか河村とかも同類でしょう。民主党も幼な過ぎた。自民党議員だって同じだ。威張り散らし官僚や現場を混乱させる勘違い議員は多数います。
「ボクが出て行かなければダメだ」なんていつも橋下は言い職員を信用しない。そのくせ災害が起こっている最中に自宅でツイッター三昧がばれると、「ボクが行かなくても電話指示で十分だ」などと言い訳け、支離滅裂だ。
やっぱり日本国という組織は、劣化していると感じざるを得ません。
政治家も企業家も、そして私自身を含む大人たちすべてが劣化しているのでしょう。
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