2024年11月16日
シークレット・エクスプレス
真保裕一著、シークレット・エクスプレスを読んだ。
久しぶりに、一気に読み進んだ、おもしろい本だった。
鉄道が舞台のサスペンスものは多々あるが、私の興味をひいた内容だった。
自衛隊から緊急の物資輸送を依頼されたJR貨物が、目的地まで運ぶというもの。
しかし、輸送対象物を偽り、極秘計画で運行させようとする内容。
JR貨物と、駅、地名などは実在のもの、企業名は架空の設定だが「三峯」は「三菱」そのものだろう。
自衛隊が表向きの荷主となり、裏では国が暗躍して、警察はひたすら警備する。
JR貨物の主人公、JR貨物の各職員、運行の妨害を企てる反対派、マスコミ、本当の荷主、警察の描き方が読み進めて引き込まれた。
JR貨物の運行体制は、取材を元にかなり正確に描かれているが、鉄道マニア的には突っ込みどころもあったので、そのいくつかを書きます。
1.信越本線、長鳥駅付近の妨害工作
列車を止める手段はたくさんある。何も架線切断しなくったって、踏切の非常スイッチを押せば済むし、踏切支障検知器に袋でも被せれば、踏切内に支障物有りと感知して、非常発報信号が点滅して、周辺の信号が赤になり、すべての列車を止められる。
架線切断なんて荒っぽい手段を用いなくても、止めようと思えば容易に人為的に悪意を持って止めることなど簡単だ。ATS検知を利用して、線路やATS地上子に小細工すればよい。
2.三河安城-笠寺間の架線切断と踏切妨害
正確にどの駅付近かは書かれていない。武豊線との分岐で線路が輻輳する刈谷・逢妻-大府間あたりがちょっと辺鄙だから、そのあたりか。ここでも架線切断と、クルマを踏切内に放置するという荒っぽい妨害工作をした。1.と同様クルマを踏切内に放置しなくても十分良いと思うが、運転士が赤信号確認(踏切支障検知器が作動したから)で目視でクルマを確認して非常停止させた。この区間の東海道線は電車が頻発しているから、目的の貨物を止めなくても、先行電車を止めれば後続の貨物列車も止まる。架線切断と踏切妨害箇所からはるか後方に目的の貨物列車を止めたほうが、警察の目はくらませると思う。
そしてもう一点。停止信号が出てから、ブレーキをかける運転士に止めるなと主人公が叫ぶが、停止信号を無視すれば、ATSが勝手に非常ブレーキをかけるだろう。確認スイッチで解除する余裕など、あの場面ではないと思う。
3.気動車
作中に何度も、気動車という言葉が出る。ディーゼル機関車のことだろうが、気動車といえばディーゼルエンジンで走る旅客車というのが通常だ。JR貨物に取材して書かれた作品だから、JR貨物内ではディーゼル機関車のことを気動車と呼んでいるのだろうか。私は知らない。
4.逆走
三河安城-笠寺間に停車したあと、最後尾に連結したディーゼル機関車に乗り移り、始動させて列車をバックさせた。これはもう、事故時とはいえあきらかに重大な規則違反。停止しているから後続列車も停止信号で止まっていて突っ込んでくることはないが、かなり荒技だ。総括制御のことにも触れているが、それはないことを承知のうえでEH500本務機がブレーキ解除させるはずとの前提で行うが、本務機の運転士が意思疎通無くブレーキ解除するというのは難しい判断で、危険だと思う。そのあたりの描写は前半よりも雑になっている。
普段はオーバーランですら指令に従うことなく勝手にバックすることはできない。前半は詳細緻密な描写で進行するが、物語後半の描写は荒っぽくなってくる。
5.信号の言い回し
南長岡を発車する際に指令から「進行信号、青点灯」と言う。指令が信号現示を指示するだろうか。信号現示を確認するのは運転士だと思う。運転台の主人公も「信号、青点灯」と返すが、こういう場合は「場内何番、出発 進行」だろう。列車が停止している何番の着発線の、出発信号機の現示が青、進行である。鉄道信号は赤=「停止」、黄=「警戒、徐行」、黄青=「注意」、青=「進行」と呼称してそれに合わせた速度に減速、増速をする。「青点灯」とか運転士は言わないでしょう。さすがにJR貨物の機関車への添乗取材までは出来なかったのだろう。
東静岡を発車するときは、指令から「出発許可します」、運転士「出発進行」と言う。こちらは現実的でした。でもたぶん、一般的な日本語として「出発進行」と言っているのであって、「出発」信号が青現示、「進行」という「出発 進行」ではないと思う。
ちなみに、北越急行ほくほく線には青青=「高速進行」というものもあった。
6.速度指示
指令とのやりとりで、「時速50キロを保て」とか言っているが、「時速」、「キロ」は言わない。「(本則は80だけど)制限50で進行してください」とか言うと思う。
最終盤での展開は予想外だった。前半は息つく暇もないくらい読み続けたが、シークレット・エクスプレス、「フォーナイン」が目的駅に着いてからの展開は、ちょっと怠惰となり読むペースが落ちてしまった。なんかいまいちすっきりしない結末でした。
(あくまで個人の感想です)
久しぶりに、一気に読み進んだ、おもしろい本だった。
鉄道が舞台のサスペンスものは多々あるが、私の興味をひいた内容だった。
自衛隊から緊急の物資輸送を依頼されたJR貨物が、目的地まで運ぶというもの。
しかし、輸送対象物を偽り、極秘計画で運行させようとする内容。
JR貨物と、駅、地名などは実在のもの、企業名は架空の設定だが「三峯」は「三菱」そのものだろう。
自衛隊が表向きの荷主となり、裏では国が暗躍して、警察はひたすら警備する。
JR貨物の主人公、JR貨物の各職員、運行の妨害を企てる反対派、マスコミ、本当の荷主、警察の描き方が読み進めて引き込まれた。
JR貨物の運行体制は、取材を元にかなり正確に描かれているが、鉄道マニア的には突っ込みどころもあったので、そのいくつかを書きます。
1.信越本線、長鳥駅付近の妨害工作
列車を止める手段はたくさんある。何も架線切断しなくったって、踏切の非常スイッチを押せば済むし、踏切支障検知器に袋でも被せれば、踏切内に支障物有りと感知して、非常発報信号が点滅して、周辺の信号が赤になり、すべての列車を止められる。
架線切断なんて荒っぽい手段を用いなくても、止めようと思えば容易に人為的に悪意を持って止めることなど簡単だ。ATS検知を利用して、線路やATS地上子に小細工すればよい。
2.三河安城-笠寺間の架線切断と踏切妨害
正確にどの駅付近かは書かれていない。武豊線との分岐で線路が輻輳する刈谷・逢妻-大府間あたりがちょっと辺鄙だから、そのあたりか。ここでも架線切断と、クルマを踏切内に放置するという荒っぽい妨害工作をした。1.と同様クルマを踏切内に放置しなくても十分良いと思うが、運転士が赤信号確認(踏切支障検知器が作動したから)で目視でクルマを確認して非常停止させた。この区間の東海道線は電車が頻発しているから、目的の貨物を止めなくても、先行電車を止めれば後続の貨物列車も止まる。架線切断と踏切妨害箇所からはるか後方に目的の貨物列車を止めたほうが、警察の目はくらませると思う。
そしてもう一点。停止信号が出てから、ブレーキをかける運転士に止めるなと主人公が叫ぶが、停止信号を無視すれば、ATSが勝手に非常ブレーキをかけるだろう。確認スイッチで解除する余裕など、あの場面ではないと思う。
3.気動車
作中に何度も、気動車という言葉が出る。ディーゼル機関車のことだろうが、気動車といえばディーゼルエンジンで走る旅客車というのが通常だ。JR貨物に取材して書かれた作品だから、JR貨物内ではディーゼル機関車のことを気動車と呼んでいるのだろうか。私は知らない。
4.逆走
三河安城-笠寺間に停車したあと、最後尾に連結したディーゼル機関車に乗り移り、始動させて列車をバックさせた。これはもう、事故時とはいえあきらかに重大な規則違反。停止しているから後続列車も停止信号で止まっていて突っ込んでくることはないが、かなり荒技だ。総括制御のことにも触れているが、それはないことを承知のうえでEH500本務機がブレーキ解除させるはずとの前提で行うが、本務機の運転士が意思疎通無くブレーキ解除するというのは難しい判断で、危険だと思う。そのあたりの描写は前半よりも雑になっている。
普段はオーバーランですら指令に従うことなく勝手にバックすることはできない。前半は詳細緻密な描写で進行するが、物語後半の描写は荒っぽくなってくる。
5.信号の言い回し
南長岡を発車する際に指令から「進行信号、青点灯」と言う。指令が信号現示を指示するだろうか。信号現示を確認するのは運転士だと思う。運転台の主人公も「信号、青点灯」と返すが、こういう場合は「場内何番、出発 進行」だろう。列車が停止している何番の着発線の、出発信号機の現示が青、進行である。鉄道信号は赤=「停止」、黄=「警戒、徐行」、黄青=「注意」、青=「進行」と呼称してそれに合わせた速度に減速、増速をする。「青点灯」とか運転士は言わないでしょう。さすがにJR貨物の機関車への添乗取材までは出来なかったのだろう。
東静岡を発車するときは、指令から「出発許可します」、運転士「出発進行」と言う。こちらは現実的でした。でもたぶん、一般的な日本語として「出発進行」と言っているのであって、「出発」信号が青現示、「進行」という「出発 進行」ではないと思う。
ちなみに、北越急行ほくほく線には青青=「高速進行」というものもあった。
6.速度指示
指令とのやりとりで、「時速50キロを保て」とか言っているが、「時速」、「キロ」は言わない。「(本則は80だけど)制限50で進行してください」とか言うと思う。
最終盤での展開は予想外だった。前半は息つく暇もないくらい読み続けたが、シークレット・エクスプレス、「フォーナイン」が目的駅に着いてからの展開は、ちょっと怠惰となり読むペースが落ちてしまった。なんかいまいちすっきりしない結末でした。
(あくまで個人の感想です)